「目標CPAを1万円に設定したけれど、『なぜ1万円なのか?』と聞かれても自信を持って答えられない」
「過去の数字や、なんとなくの業界平均をそのまま流用してしまっている」
広告運用の現場では、こうしたKPI(重要業績評価指標)の根拠に関する悩みをよく耳にします。
特に、限られた予算の中で成果を出さなければならないプレイングマネージャーの方にとって、妥当なラインがわからないまま運用するのは大きなストレスではないでしょうか。
CPAが高騰したときに「どこまで許容していいのか」判断できず、慌てて予算を縮小して機会損失を招く……なんてことにもなりかねません。
管理画面に表示される数字だけを見て一喜一憂していませんか?
それはビジネス全体から見れば、「木を見て森を見ず」の状態かもしれません。
今回は、リスティング広告の成果を最大化するために一度視座を高くして、そもそも何のためのKPIか? という基本から、現場の迷いを断ち切るための応用的な考え方までを解説します。
目次
【基礎編】 迷子にならないための「KPIツリー」思考
まず結論からお伝えします。
KPIの根拠は下から積み上げても出てきません。必ず経営目標(KGI)から逆算する「トップダウン」で考える必要があります。
「過去のCPAがこれくらいだったから」という実績ベースの目標もひとつの目安にはなりますが、それはあくまで過去の結果であって、未来の事業成長に必要な数字とは限りません。
自信を持って語れるKPIを設定するには、以下のロジックツリー(KPIツリー)をイメージすることが不可欠です。
広告はあくまで「末端の枝葉」である
KPIを設計する際は、全体像を把握することから始めましょう。
KPIツリーのイメージ

- KGI(経営目標)
- すべての出発点です。「今期の売上目標10億円」など、会社として達成すべきゴールです。
- 大分類(新規 vs 既存)
- その売上を作るために、注力すべきは「新規顧客の開拓」なのか、「既存顧客の単価アップ」なのかを分解します。
- 手段(Web vs オフライン)
- 新規獲得の中で、Webマーケティングが担うべき数字を割り出します。
- 施策(リスティング広告)
- ここで初めて、「リスティング広告で月間50件のリードを獲得する」といった具体的なミッションが降りてきます。
- 現場指標(CPAなど)
- その50件を予算内で獲得するために必要なCPA(獲得単価)やクリック単価が算出されます。
このように上流から順に計算していくことで、初めて会社が利益を出すために必要なCPAが導き出されます。
当社へご相談いただくお客様の中にも、「とにかくCPAを下げたい」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
しかし、よくよくお話を伺うと「CPAを維持したまま、件数をもっと増やさないと売上目標に届かない」というケースも少なくありません。
ロジックが通っていれば、「CPAが高騰した」という事象ひとつをとっても、「全社の利益目標に対して致命的か、許容範囲内か」を冷静に判断できるようになります。
成果を出すための指標の見直し方については、以下の記事でも詳しく解説しています!

実践! KPI設定シミュレーション
では、実際に数字を当てはめて計算してみましょう。
ここでは「B2B向けサービスのリード獲得」を例に考えます。
前提条件
- KGI(月間売上目標): 1,000万円
- サービスの平均単価: 100万円
- 広告予算(販促費率): 売上の10%以内(100万円)
逆算ステップ
- 必要な「受注数」を出す
- 売上1,000万円 ÷ 単価100万円 = 10件 の受注が必要です。
- 必要な「商談数(リード数)」を出す
- 営業の成約率が20%だと仮定します。
受注10件 ÷ 成約率20% = 50件 のリード(CV)が必要です。
- 営業の成約率が20%だと仮定します。
- 目標CPAを出す
- 予算100万円 ÷ 目標リード50件 = 2万円
これにより、今月のリスティング広告のKPIは「CV数50件、CPA2万円以内」と決まります。
こうして算出された「CPA2万円」には、「会社の売上目標1,000万円を達成するための必須条件」という強固な根拠が生まれるわけです。
【保存版】 リスティング広告の主要KPI・計算式一覧
KPIツリーの概念と設定フローを理解したところで、実務で頻繁に使う主要な指標を整理しておきましょう。
「この指標ってどう使うんだっけ?」と迷ったときは、この表に立ち返ってみてください。
| 指標名 | 英語・略称 | 意味・役割 | 計算式 |
|---|---|---|---|
| コンバージョン数 | CV (Conversion) | 【成果の数】 商品の購入、問い合わせ、資料請求など、最終的な成果の件数。すべての基本。 | - |
| 獲得単価 | CPA (Cost Per Action) | 【成果の効率】 CV1件を獲得するのにかかった費用。 リード獲得(BtoBなど)で最重要視される。 | 広告費 ÷ CV数 |
| コンバージョン率 | CVR (Conversion Rate) | 【サイトの基礎体力】 広告をクリックした人のうち、成果に至った割合。 LPの良し悪しを判断する指標。 | CV数 ÷ クリック数 × 100 |
| 広告費用対効果 | ROAS (Return On Ad Spend) | 【売上の効率】 広告費に対して、どれだけ売上があがったか。 ECサイトなど単価が変動する事業で重視。 | 売上金額 ÷ 広告費 × 100 (%) |
| クリック単価 | CPC (Cost Per Click) | 【集客の単価】 1クリックあたりにかかった費用。 競合環境によって変動する。 | 広告費 ÷ クリック数 |
| クリック率 | CTR (Click Through Rate) | 【広告の魅力】 広告が表示された回数のうち、クリックされた割合。 広告文や見出しの質を測る。 | クリック数 ÷ 表示回数 × 100 |
これらはすべて覚える必要はありませんが、特にCPA、CVR、ROASの3つは、会社への報告や予算策定で頻出するため、意味と計算式をセットで押さえておきましょう。
【注意点】 陥りがちな「部分最適」の罠
KPIツリーを理解した上で、運用担当者が最も気をつけるべきなのが部分最適の罠です。
わかりやすく言えば、「枝(広告のCPA)を綺麗に整えることに夢中になって、幹(会社の売上)に栄養が行かなくなったら本末転倒」ということです。
管理画面の「正解」が、経営の「不正解」になることも
例えば、以下のようなケースは現場でよく起こります。
- CPAを下げるために、競合が少ないキーワードばかり狙う
- 確かにCPAは安くなりますが、検索ボリュームが少なく、会社が必要とする「件数」が取れない可能性があります。
- 「資料請求」のハードルを極端に下げる
- CV数は増えて見栄えは良いですが、検討度の低いユーザーばかり集まり、後の営業工数だけが増えて成約しない事態を招きます。
これらは、広告管理画面の中だけで見れば優秀な成績に見えます。
しかし、会社全体で見れば売上に貢献していない(むしろ営業リソースを無駄遣いしている)ことになります。
実際に私たちも、「前の代理店ではCPA目標を達成していたが、なぜか売上が伸び悩んでいた」というお客様のアカウントを引き継ぐことがあります。
分析してみると、「取れるけれど質の悪いキーワード」に予算が集中していた、というのがひとつの課題のパターンになっています。
KPIはあくまで「目標達成のためのチェックポイント」であり、KPI達成そのものがゴールではありません。
数字を追うあまり、本来の目的である売上や利益を見失わないよう注意が必要です。
こうしたミスマッチを防ぐキーワード選定の基本については、こちらの記事も参考になるので、ぜひチェックしてみてください!

【応用編】 現場の対立を解消する「質」のKPI
「Webチームは目標達成(CV数クリア)と言っているが、営業チームからは『質が悪くて売れない』とクレームが来る」
事業会社のマーケティング担当者なら、一度はこんな社内冷戦を経験したことがあるのではないでしょうか。
この原因は、マーケティング側のKPIが「量(CV数やCPA)」で止まっており、「質(売上に繋がる確度)」が評価指標に含まれていないことにあります。
1. 追うべきは「有効リード数」や「成約率」
このズレを解消し、マーケティングと営業が手を取り合って事業成長を目指すためには、広告運用のKPIをもう一歩奥へ踏み込ませる必要があります。
- 有効リード数(商談化数)
- 単なる問い合わせ数ではなく、営業が「商談可能」と判断した件数をKPIにする。
- 成約率(受注率)
- どの広告経由のリードが成約しやすいかを計測し、CPAが高くても成約率が高いキャンペーンを評価する。
このように、後工程の数字を広告運用の評価軸に組み込むことで、マーケティング担当者は「ただ件数を集める人」から、「売れるリードを連れてくるパートナー」へと進化できます。
もし自社に合うパートナー(代理店)をお探しの場合は、以下の選び方のポイントもあわせてご覧ください!

2. 見るべき数字を「3つ」に絞る勇気
最後に、多忙なマネージャーや担当者のために、日々の運用でチェックすべき指標を整理します。
管理画面には無数の数字が並んでいますが、すべてを毎日追っていたら、時間がどれだけあっても足りません。
そこで、以下の「3つの役割」を持つ指標に絞って定点観測することをおすすめします。
- CV数(成果)=アクセル
- 事業が前に進んでいるかを確認する、最重要指標です。ここが目標に届いているかが全ての始まりです。
- CPA(効率)=ブレーキ
- 赤字になっていないか、スピードを出しすぎていないかを確認するガードレールです。許容範囲内に収まっていればOKとします。
- インプレッションシェア(機会)=健康診断
- 「もっと取れる余地(ポテンシャル)があるか?」「予算不足で機会を逃していないか?」をチェックします。
「あれ? CVR(コンバージョン率)は入らないの?」と思われたかもしれません。
もちろんCVRは重要ですが、それは上記の3つの数字が悪化したときに初めて見る「診断用(深掘り用)」の指標と割り切るのがコツです。
「CVが減った(アクセルが弱い)」→「なぜ? CVRが下がっているからだ」→「LPを改善しよう」
というように、異常値を検知した後のアクションとして詳細指標を見ることで、日々の意思決定スピードを格段に上げることができます。
リスティング広告のKPIについてのよくある質問
最後に、リスティング広告のKPI設定について、お客様からよくいただく質問にお答えします。
Q. 予算が月額数十万円と少ないのですが、それでもKPI設定は必要ですか?
A. はい、予算規模に関わらず必要です。
むしろ、予算が限られているからこそ「どこまでコストをかけられるか(許容CPA)」と「最低限これだけは取りたい(目標CV数)」を明確にしておかないと、あっという間に予算が尽きてしまいます。
当社では、少額予算からのスタートであっても、しっかりとビジネスゴール(KGI)をヒアリングした上でKPIを設計し、無駄のない運用をご提案しています。
Q. 業界の平均CPAが知りたいのですが……
A. 参考にはなりますが、目標値にするのは危険です。
自社のCPAが1.5万円のときに「競合他社はCPA 1万円で獲得している」と聞くと焦る気持ちはわかりますが、他社と御社では「商品単価」「成約率」「LTV(リピート率)」などの利益構造が全く異なります。
他社の数字に惑わされず、自社の利益が出る「限界CPA(損益分岐点)」を把握することの方が、よほど重要で健全です。
Q. KPI(CPA)を達成していても、失敗とみなされることはありますか?
A. 目的とズレていれば、あり得ます。
前述の通り、CPAが安くても「成約しないリード」ばかりであれば、会社の利益は増えません。
当社では、単に管理画面上の数字を合わせるだけでなく、「そのリードが本当に売上に貢献しているか?」をお客様と定例会ですり合わせ、必要であればあえてCPAが高い(質の良い)キーワードへ配信を寄せる提案も行っています。
まとめ:KPIは「固定」せず、ビジネスに合わせて進化させる
リスティング広告のKPI設計について、基礎的な考え方から応用まで解説しました。
- KPIは経営目標(KGI)から逆算して根拠を作る。
- CPAやCV数といった部分最適に固執しすぎない。
- 営業と連携し、質(商談化・成約)まで見た指標を追う。
ビジネスの状況は常に変化します。
創業期なら多少コストがかかっても「認知・件数」が最優先かもしれませんし、安定期に入れば「獲得効率(CPA)」や「LTV(顧客生涯価値)」が重要になるでしょう。
一度決めたKPIを金科玉条のように守るのではなく、「今のKPIは、会社の利益に最大限貢献できているか?」を常に問いかけ、柔軟に進化させていく姿勢こそが、成果を出し続けるマーケターの条件と言えるのではないでしょうか。
ASUEでは、単なる広告運用代行だけでなく、貴社のビジネスモデルや課題に寄り添ったKPI設計からサポートいたします。「今の目標設定で合っているのか不安」「代理店と話が噛み合わない」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
実際の成功事例を知りたい方は、以下の資料もぜひご活用ください。
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上記のようなお悩みを持った方へ
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この記事を書いた人
田中祐晴
旧Twitterリスティング広告・SNS広告の運用5年目
BtoBのリード獲得をメインとした領域の運用型広告コンサルを担当。
成約までを考えた広告設計・改善で伴走支援いたします。