あしながマーケター

第三回 20XX+1年1月〜4月

2023年04月18日 2023年05月10日

20XX+1年1月24日

親愛なるあしながマーケター様

本当に本当に、とても悪いお知らせがあります。最初にお伝えすると悲しませると思うので、楽しい話からしたいと思います。異動してきてから初めて出した企画が通りました。小さい企画ですが、現在先輩の下でプロジェクトを進行中です。お正月のおみくじは大吉でしたし、テレビの星座占いは1位でしたし、さっき淹れたお茶に茶柱が2本立ちました。そろそろ楽しい気分になりましたか?

今日は珍しくこちらでは雪が降っていました。外の街路樹の枝が雪の重みでたわんでいます。でも、わたしは悲しみの重さでたわんでいるのです。

年明けから、いくつか資格試験を受けたのですが、その一環で受けたT○EICのテストで目標の点数に届きませんでした。会社からの補助で受けたので、ショックです。次の回にも申し込んで受け直すつもりです。

それ以外にも、いろんな本を図書館で借りて読んで、いろんな知識を吸収中で、どんどん賢くなっているはずです。二度と目標を下回るようなことはいたしません。

深く反省中のJ子 より

20XX+1年2月4日

拝啓
山田太郎様

あなたはやっぱり、わたしの質問には一切答えてくださらないんですね。きっとわたしのことにはまるで興味もないのでしょう。あの役員たちの中でも、きっと一番嫌なやつなんでしょう。

わたしはあなたのことを何一つ知らないし、このままよくわからない「もの」に手紙を書くことも気がすすみません。ひょっとしたらわたしから送られるメールはそのままゴミ箱に入るようにフィルタリングしているのではないですか? これからは、仕事に関連して学んだことだけ書くようにします。

敬具
A村J子

20XX+1年2月10日

あしながマーケターさま

わたしはまるで獣です。

先週お送りした失礼なメールのことはどうかお忘れください。ひどい扁桃腺とインフルエンザで、のどが痛くて、あの手紙を書いたときはそれはそれはひどい気分でした。38℃以上の熱がなかなか下がらず、今は自宅で療養中です。4日目にして、ようやく起き上がってメールを打つ元気がでてきました。

※画像はイメージです

送ったメールのことがなかなか頭から離れず、ずっと謝りたかったのです。許していただけるまで、症状がよくならないかもしれません。

長く書いているとフラフラしてくるので、短いですがこの辺りで。どうか失礼な恩知らずのわたしをお許しください。

愛を込めて
J子

20XX+1年2月14日

大好きなあしながマーケターさま

なんとか微熱程度にまで熱が下がり、夕方頃ベッドの上で窓の外を眺めながら休んでいたら、インターホンがなりました。

宅配便が、わたし宛の小包を届けてくれて、中には4個入りのチョコレートとオレンジ色のかわいらしいブリザーブドフラワーが入っていました。(オレンジ色は色彩心理的に見た人をポジティブな気分にさせる色だと先日本で読みました。わたしがネガティブだから選んでくださったのでしょうか。)さらに、カードが一枚入っていました。小さな文字でメッセージ付きで。

ありがとうございます。何度も何度もお礼をいいます。こんなに素敵なプレゼントは、人生で初めてかもしれません。枕が涙で湿っています。

わたしのメールを読んでくださっているということがわかったので、これから先、重要ラベルをつけて、読み返したくなるような素敵なメールを送ると誓います。あのひどいメールはどうかゴミ箱へ移してどうかもう読み返さないでくださいね。

あなたが実在すると確信が持てたので、二度と失礼な態度をとったり質問をして困らせたりしないと約束します!

あなたに永遠に感謝を捧げる
J子より

木曜日、仕事を終えて

さて、たくさん本を読んでいますと先日お伝えしましたが、わたしの好きな本はなんだと思われますか? 今好きな本は——というのも、実は3日ごとに好きな本が変わっているので——エミリー・ブロンテの「嵐が丘」です。シャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」が好きだったときもありますし、ジェイン・オースティンの「高慢と偏見」に熱中していたときもあります。あと、最近好きな役者さんのエッセイ本も読んでいます。

すばらしいライターたちの本を読んでいると、わたしに彼女等のような人の心を動かせる文章が書けるのだろうかと不安に思います。わたしが立派なマーケターにならなかったら、きっとひどくがっかりなさるんでしょうね。

 

きゃあ!

さて、叫んだ後に慌ててアパートの廊下に飛び出したら、他の部屋から彩里と珠璃亜が飛び出してきました。悲鳴の理由は、部屋にムカデが出たせいです。メールのラストをどう書こうかと悩みながら部屋の廊下を行ったり来たりしてました。ヘアブラシを片手に髪をとかしながら。そうしたら、天井から降ってきたのです。驚いて外に出て、部屋の前で二人にそれを言うと、珠璃亜がわたしが手に持っていた(さっきまで髪をとかすのに使用していた)ヘアブラシを掴んでわたしの部屋に入って床に落ちたムカデをピシャっと叩き潰しました。わたしのブラシで!

潰れなかった半分(ここでは五十足とします)はまだ動けたようで、珠璃亜が開け放した玄関ドアからよろよろと出てきたところをわたしが履いていた外履きスリッパで踏み潰しました。

もうあのヘアブラシを使おうとは思えません。気に入っていたのですが捨てることにします。

金曜日、夜

災難続きの一日でした。

今朝はスマホのアラームが聴こえず、家を出る予定の45分前に飛び起きました。普段は1時間半前に起きるのです。慌てて準備していたら、着ようとしていたブラウスのボタンが、最後のボタンを止めるタイミングでとれた上に、メイク中アイラインを盛大に失敗しました。バッグに入れたステンレスボトルの蓋がきちんと閉まっておらず、入っていたお茶が漏れていました。今日はパソコンを持ち歩いていなかったことが不幸中の幸いです。

ミーティングでは上司と些細な問題で意見が食い違いました。周りに聞いたり調べたら、上司が正しかったようです。ランチに行った定食屋さんのいつも食べている日替わり定食が苦手なかぼちゃコロッケでした。

午後の会議では、成果のよくないプロジェクトについて、いいアイデアが誰からも出ずほとんどの時間を真っ白になりながら過ごしました。

こんながっかりするような出来事ばかり、聞いたことがありますか?

人がその本質を問われるのは、大きな危機や悲劇に立ち向かうときではないのだと思います。それは、勇気を持てば立ち向かい、克服することができるのだから。でも、日々のちょっとした辛い出来事を笑い飛ばすときこそ、強い精神力が必要だと思いました。

わたしはそんな人間になってみせます。

J子

20XX+1年3月20日

あしながマーケター様

拝啓

田舎の伯母から手紙が届きました。彼女はわたしが地元を離れる際、一番うるさかった人です。ゴールデンウィーク中は連日親戚の集まりがあるから、帰ってきて台所を手伝いなさい、とのこと。

帰るべき集まりならもちろん帰りますが、その集まりには全くわたしが必要ないのです。よく知らない親戚にビールを持って来いと言われるためだけには戻りたくありません。

A村J子

20XX+1年3月28日

親愛なるあしながマーケター様

あなたの申し出、本当に嬉しく思います!!
避暑地の会社の保養施設で過ごせることになりました。

施設内の掃除や片付けなどを手伝いつつ(休日出勤扱いで実働時間分の手当も出るそうです)、空いてる時間は好きなことをして大丈夫なようです。

仕事を盾に、伯母へは断りの連絡を入れることができました。本当に最高!

J子

20XX+1年4月10日

親愛なるあしながマーケターさま

女性社員向けの借り上げ社宅のマンションを見たこと、ありますか?(これはただの導入文なので深くは気にしなくて結構です)

春はいい季節ですね。マンションの前の道には白い花が咲いた街路樹が並んでいて、ハクモクレンかコブシかの区別は付いていませんが、とても綺麗です。大通りまで出るとソメイヨシノが咲いていますが、それはもうほとんど葉桜になっています。隣の公園は見晴らしも良くて芝生が敷いてあって、ちょっとしたピクニックにもちょうどいいです。

さて、今週は変わったことが起きました。ある男性と歩き、話をし、お茶まで飲んだのです。お相手はQ条潤さん。そう、珠璃亜の叔父様! あなたと同じで足も背も長いの。

先週末、昼前に出かけようと部屋を出たところで彩里と珠璃亜と一緒になりました。わたしはコンビニ、彼女たちはそれぞれ美容院に行くところだったそうで、一緒にエントランスまで出ると共用スペースのソファーに知らない男性が座っていました。(ここのマンションは基本女性用なので、場合によっては通報されてもおかしくありません。) 用があって近くに来たついでに、珠璃亜の様子を見に来たそうで、彼女の母からのお土産を持ってきていました。ソファーに座って、珠璃亜に連絡を取るところだったみたいです。珠璃亜の父親の一番下の弟だそうで、お父様よりもわたしたちの方が年齢が近いみたい。

叔父様と言っても、珠璃亜は彼のことを詳しくは知らないそうで —— というのも、珠璃亜が生まれたときにまだ赤ちゃんの彼女を一目みただけで気に入らないと判断してそれ以来少しも気に留めなかったそう。

でも、お育ちが良くて親戚付き合いも大事にしている珠璃亜だから(これは皮肉のような言い方ですが事実であり、皮肉のつもりはありません)、彼をそのまま追い返すわけにはいかないと美容院から戻ってくるまでの2-3時間相手をしていて!とわたしに頼んできたのです。

わたしは(珠璃亜をはじめとした)Q条家に興味がないので気乗りはしませんでしたが、会社近くのおしゃれカフェでのランチで手を打つことにしました。

さすがにいくら珠璃亜の叔父様とはいえ、見ず知らずの初対面の男性を部屋に上げるわけにもいかないので、近くのカフェまで案内して、ランチを食べながらお話をしました。

本当に全く気乗りしていませんでした。見た目はもう、Q条家そのもの! ですが、話してみると彼は想像していた人と全く違いました。(珠璃亜との初対面の頃に抱いていたような)"Q条家らしさ"がない、人間味のある方でした。

Q条さんを見ていると、○十年前のあなたを思い出します。会ったことはありませんが、わたしはあなたのことをよくわかっているつもりなので。背が高くて、細くて、少し浅黒い顔。そして口角を少し持ち上げるように笑う顔がおかしくって。

珠璃亜にはそのカフェにいることをメールで知らせておいたけど、結局Q条さんは出なきゃいけない時間になってしまって、珠璃亜がくる前に帰っていきました。彼はものすごく裕福で、親戚中の若い子にとっては魅力的で憧れの的だったらしく……美容院から戻ってきた珠璃亜は怒りながらさっきまでQ条さんが座っていた席に座ってパフェを食べていました。

今朝、珠璃亜と彩里、そしてわたし宛に3箱のチョコレートが届きました。Q条さんから、お礼とお詫びも兼ねて。(彩里宛のはほとんどおまけです。)

いつか、あなたもわたしとランチを食べてくれたらいいなと思います。あなたがわたしにとっていい人だと思えることを確かめたいと思います。

J子

P.S. 鏡を見たら、今までまるで見覚えのないえくぼを発見しました。不思議、一体どこから来たのでしょうか。

昔から、二度ある事は三度あるは申しますが、第3弾も書きました。

第一回「憂鬱な月曜日」
あしながマーケター第一回はこちら
 2022年10月18日第一回「憂鬱な月曜日」
第二回 20XX年10月〜
第二回はこちら
 2022年11月22日第二回 20XX年10月〜

参考:「The Project Gutenberg eBook of Daddy-Long-Legs, by Jean Webster」
https://www.gutenberg.org/cache/epub/157/pg157.html

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現代風(?)のアレンジとエピソードをいろいろ割愛した以外はほぼ原作に沿っている内容なのですが、Twitterで見かけた感想を見るに意外と読んだことがない人も多いようだった。

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